元がん家族の声

コピーライター仲山さとこのインタビュー記事集

「がん家族は第二の患者」

―この言葉が存在しない世の中に―

<今回の元がん家族インタビュープロフィール>

Yさん(25歳/会社員)

 

2015年に祖父ががんを患い、母と祖母がメインで看病を担当。当時、高校生だった山田さんは、祖父を看病した母から多くを学び、大学での研究と現在の仕事に活かされることとなりました。

 

 

「病院には行かん」頑固だった祖父

祖父を看病した母からの学び

 

 

――ご家族構成を教えてください。

Y:2世帯住宅で、今は両親と父方の祖母と暮らしています。

――家族のどなたが、がんを患われたのですか?

Y:僕が中学生の頃、父が希少がんの一種とされるGISTにかかりましたが手術と薬のおかげで、今は元気にしています。

――それは幸いでしたね。

Y:はい。でも、僕が大学生のときに祖父の具合が悪くなりました。咳が出て、呼吸もつらそうなほどでした。家族で病院に行くようにすすめたんですが、頑固で病院嫌いな祖父の腰は重くて……。ようやく病院に行ったところ、末期の肺がんと診断されました。

 

 

 

 

祖父を見送った後、母が鬱に

 

 

――おじいさんの看病はどなたがされたのですか?

Y:主に母と祖母です。僕も時々お見舞いに行きました。祖父は入院して3か月ほどで他界しました。

――その後、お母さんの様子に変化が見られたそうですね。

Y:今でも思い出すのは、母の「何もしたくない」という言葉です。目に見えて疲れており、何事にも無気力になっていました。僕が「ヒーリングの曲でも聴いてみたら」とCDを渡しても「興味がない」のひとことが返ってくるだけでした。

 

 

――看病疲れが原因でしょうか。

Y:看病、仕事、家事すべてをがんばっていた母は「家族だからこそ、家族に頼れなかった」と考えていたようです。

――なるほど……。

Y:「私はおじいちゃんの看病をしているけれど、息子には息子の人生がある。楽しく学生生活を送ってほしい」と。

――母心がしみますね。それだけに、お母さんの体調や心の具合が心配です。

Y:心療内科で鬱と診断され、薬を服用するようになりました。幸い回復し、今は薬を飲む必要もなく元気に暮らしています。

――それは良かったです。

 

Y:薬もさることながら、一番の話し相手である祖母(母にとっての姑)とのおしゃべりが、母の心を癒したのではないかなと思います。

 

 

 

 

大学で遠隔診療を研究

 

 

――この経験を、大学での学びに活かしたそうですね。

Y:僕の祖父のような病院嫌いの人も、自宅にいながら医療を受けられる世の中になったらいいなと思い、ゼミでは「遠隔診療」をテーマに選びました。

――遠隔診療は、病院が少ない地域に暮らす人にも役立ちますね。

Y:そうです。しかし、研究を進めるうちに、課題も見えてきました。一般的に病院にかかると、医師が診断内容や処方に応じて点数を計算し、患者が医療費として支払います。そうして医療制度が成り立っています。一方、遠隔診療は、パソコン、タブレット、スマートフォン等に医療アプリケーションを入れて行われますが、医療費の支払い、つまり「決済」機能の構築が難しいことがわかったんです。

 

 

――その課題意識が就職活動に反映されたとか。

Y:オンライン決済の分野に強いシステム系の会社に就職しました。ちなみに、「遠隔診療」は現在、「オンライン診療」と呼ばれています。距離としての遠隔だけでなく、病院が苦手な人、病院が近くにあるけれど忙しくて時間が取れない人など、オンライン診療によってより多くの人が医療を受けられる時代が始まりつつあります。

 

 

 

 

がん家族にこそ必要な日常の楽しみ

 

――自分も家族もがんにかかったことがない人に伝えたいことはありますか?

Y:今は健康であっても、将来的には、家族ががんを申告される日がやって来るかもしれません。そんなときには、「どうか一人で背負いすぎないで」という言葉をかけたいです。家族ががんと知った途端、「私が何とかしなければ!」と思ってしまいがちですが、他の家族、あるいは第三者を頼ることが大切だと思います。

 

 

――具体的にはどのようにするのでしょうか。

Y:家族間では、看病や家事が分担できます。第三者の例として、家事代行サービスや、がん患者家族会Mon ami※を活用してみてはいかがでしょうか。Mon amiでは、プロのボランティアによる「ハンドリフレ(マッサージ)」や、話を聞いてもらうサービスを受けられます。

※現在、Mon amiでの各種サービスは、新型コロナウイルス感染予防のため、リモートでの活動を中心としております(20211月現在)。

――時間、気持ち、体力にゆとりが生まれそうですね。

 

Y:自分のためにお金を使い、楽をするのは決して悪いことではありません。家族ががんになったのをきっかけに趣味や習い事をやめる人が多いと聞きますが、看病を続けるために、日常に自分自身の楽しみを残しておいていただきたいと思います。

 

 

 

 

理想は「第二の患者」という言葉がない世界

 

――「がん家族」のドキュメンタリー映画のプロジェクトがスタートしました。

Y:がん患者本人の治療や生き方などは、多くのメディアが取り上げています。でも、看病する側の家族にスポットライトが当たることはほとんどありませんでした。

――確かに。でも、がん患者より、がん家族の方が人数は多いはずですよね。

Y:その通りです。主人公=がん家族の映画を通して、「がん家族は、お困りごとや悩みを抱えている。がん家族は、ケアをされなければいけない人たちである」ということが伝わるといいと思います。

――がん家族は「第二の患者」と呼ばれています。

Y:がん家族の負担が大きいからこそ生まれた言葉だと思います。僕は、将来的には「第二の患者」という言葉そのものが存在しない世の中、がん家族が幸せに暮らせる時代が来ることを願っています。

 

 

――そのために何か取り組んでいることはありますか?

Y:オンライン診療における決済機能の構築に続き、がん家族をサポートする新しい企画の準備をしています。

――期待が高まります。

Y:オンライン診療は、さまざまな理由で病院に行けない人に役立ちますし、がんの早期発見にもつながると思います。ただ、がんという病気がある限り、家族が看病する構図がなくなることはありません。今後も、「看病する人の負担が軽くなる方法」を模索し続けたいと思っています。

 

――ありがとうございました。

<この記事を書いた人>

コピーライター/プランナー 仲山さとこ

https://nakayama-satoko.com/